モード同期ファイバレーザーに必須の構成要素:可飽和吸収機構

2021年 02月04日

  • 研究・技術
  • ファイバレーザ
モード同期ファイバレーザー(Mode-locked fiber laser : ML-FL)に必須の構成要素は可飽和吸収機構(Saturable absorber)です。ここで可飽和吸収「体」ではなく、可飽和吸収「機構」としているのは、可飽和吸収は一つの光学部品(材料)で実現することもできれば、複数の光学部品を組み合わせたシステム(機構)で実現することもできるからです。材料のSAをSA-M(SA-Material の意味)、システムのSAをSA-A(SA-Artificial の意味。Systemを使ってSA-Sとしていないのは、Artificialというのが論文で使われているからです。材料のSA-Mにも人工的に造ったものがあるので個人的には SA-S の方が適当だと思いますが…)と呼びます。それぞれの特長を分類すると下図のようになります。



SA-Material
光学部品としてよく知られているSAは、半導体可飽和吸収ミラー(Semiconductor Saturable absorber mirror : SESAM)です。SESAM使用方法が簡単なため、多くの研究用途や高出力超短パルスレーザーの発振器(Seederとも言ったりします)内で使われてます。市販の高出力1um帯のML-FLの大半はこのSESAMを採用していると考えれます。SESAMは光増幅器によりパルスエネルギーとパルスピークパワーを増幅させることで高出力アプリケーションにも検査用アプリケーションにも使えますが、それなりの技術・装置・予算が必要です。SESAMは1個10万円以上しますが、高出力(高エネルギー)パルスで焼けることがあり、製品保証もないので消耗品と割り切れるだけの精神力(研究費?)も必要です。また、可飽和吸収の応答(緩和時間)が長く、発振器からの出力スペクトルが狭い傾向にあるため(フーリエ限界パルス幅が広い)、応用上必要なパルス幅が300 fsを切るような用途にはあまり向いていません。その他、部品としての市販はされていませんが、先端研究ではカーボンナノチューブやグラフェンなどもSAになります。SESAMに比べて破壊閾値が高く、主に1.5um帯のアプリケーション開発で様々な成果を生み出しています。

SA-Artificial
モード同期ファイバレーザーのシステムとして使われているSAとして有名なのは、非線形偏波回転(Nonlinear polarization rotation : NPR or Nonlinear polarization evolution : NPE)、非線形ループミラー(Nonlinear loop mirror : NOLM)、非線形増幅ループミラー(Nonlinear amplifying loop mirror : NALM)です。SA-Aは光学部品ではないので、破壊原因は発振器に用いている光ファイバ自身や光ファイバ部品で決まります。その意味では、SA-A自身の発振閾値は高く、特別な部材を使っていないので構成部材全体を見たときの信頼性も高いと言えます。ただし、レーザー発振させるためにはテクニックが必要です。

Author - Masanori Nishiura
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