超短パルスファイバレーザーの構成要素

2021年 02月05日

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超短パルスファイバレーザーの発振器は多くの構成要素でできています.構成要素を(1)可飽和吸収機構,(2)共振器構成,(4)スペクトルフィルタの有無,(3)導波路構成,(4)パルス種類,(5)シングルパルスモード同期の実現方法 の5つに分類して各ページでそれぞれの構成要素について解説していきたいと思います.ここでは図中の各構成要素名について少し補足説明します.


Ultra short pulse components


可飽和吸収機構
超短パルスファイバレーザーの発振器は多くの場合,パッシブモード同期ファイバレーザー(Passive mode-locked fiber laser : Passive ML-FL, 多くの場合単なるモード同期ファイバレーザーと呼ぶ)と光ファイバ増幅器から構成されています(場合によってはパルスピッカーも含まれています).可飽和吸収機構は Passive ML-FL に必須の要素です.発振器に関する開発の多くの部分がこの可飽和吸収機構についてです.

共振器構成
ファブリ・ペロー共振器とリング共振器に分けられます.実際には色々な形状のものがありますが,要素毎にまとめて考えるとこの2種類に大別できると思います(例:詳しくは省略しますが,Figure-8 の発振器はNALM or NOLM 部分を1つの要素と考えるとリング共振器となります).双方向発振のリング共振器という特例を除けば,発振波長用のアイソレータ or サーキュレータを含む場合はリング共振器で,含まない場合はファブリ・ペロー共振器になります.ちなみに,アイソレータの耐光出力はパルスエネルギーとピークパワーで律速されることがあり,高出力発振器はアイソレータも大型になりやすいのでファブリ・ペロー共振器構造の方がコンパクトにできると思います.

スペクトルフィルタ
最近注目されている全正常分散(All-normal dispersion fiber laser : ANDi) モード同期ファイバレーザーでは必須の構成要素です.ほとんどの場合は狭帯域バンドパスフィルタ(Narrowband band-pass filter)です.このスペクトルフィルタにより発振波長決定,共振器内分散のリセット,位相雑音低減がされています.通常のソリトンパルスの場合は不要です.

導波路構成
導波路は全ファイバ構成と空間光学素子を含む構成に大別できます.全ファイバ構成はさらに,全偏波保持ファイバで構成しているものと,全てまたは部分的に非偏波保持ファイバを含んでいるものに分けることができます.フィルタ素子を含むファイバ部品(フィルタ型WDMカプラ,スペクトルフィルタやアイソレータ)は厳密にいうとファイバ部品の筐体内に空間がありますが,通常はこの部分の空間は無視されます.

パルス種類
パルス種類は,結果的に共振器内の分散量,励起光強度の出力によって変わります.多くの場合は,発振器を組んだ段階でどのパルスになるか決まりますが,回折格子対などによるチャープ調整機構によって切り替えることができます.ノイズライクパルスはパルスのピーク強度が不安定で,コヒーレンスが非常に小さいので一般的に好ましくないですが,測定用途では使える用途があります.近年は散逸性ソリトン,シミラリトン(さらに複数種類あります)パルスの開発が多い印象です.

シングルパルスモード同期実現方法
ML-FLのエネルギー源である半導体レーザー(Laser diode : LD)の出力をONにしただけでシングルパルス発振(パルスの繰り返し周波数が発振器の光路長の逆数となる場合 = 発振器内にパルスが1つだけグルグル回っている状態)となるのが理想です.しかし,多くの場合はLDの出力の調整や,振動・ショックを与えて共振器内に透過率の瞬間的な時間的変動を与え,強度雑音を増加しパルス化します.例えば,非線形偏波回転 ML-FL の場合は波長板を回転するなどして(もしくはファイバに振動を与えることでファイバの複屈折を瞬間的に変えて),偏波依存型アイソレータでの透過率に変動を起こしてモード同期をかけます.

Author - Masanori Nishiura
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